097 : 古今の絶唱

 

 

SERIES ≫  縮限に対自する漸近線 / 無限遠点における挙動の含意 ” 深遠な問 ” ( 2018 )

 

 

 

IMAGINE BODEGA / イマジンの醸造蔵
後図 : 銀襴の白海 ” 古今の絶唱 “ ( 不滅の賜物と時に縛られた生 )
Provision Future Ⅷ IMAGINE BODEGA 
history, convention.
TRADITION BODEGA Op. 97 ESQUISSE Werk ohne Opuszahl

OFFICE KANKE / GK.

 

 

 

 

ESQUISSE : 097 「 古今の絶唱( 流儀と様式 )” 天蓋 “ 」

 

 

一草一木の裡 あるいは鬼神力宿り あるいは観音力宿る

 

泉 鏡花

 

 

 

 

僕は随分な迷信家だ
いずれそれには親ゆずりといったようなことがあるのは云う迄もない
父が熱心な信心家であったこともその一つの原因であろう
僕の幼時には物見遊山に行くということよりも お寺詣( まい)りに連れられる方が多かった
僕は明( あきら)かに 世に二つの大( おおい )なる超自然力のあることを信ずる
これを強いて一纏( まと )めに命名すると
一を観音力( かんのんりき ) 他を鬼神力とでも呼ぼうか
共に人間はこれに対して到底不可抗力のものである
鬼神力が具体的に吾人の前に現顕する時は
三つ目小僧ともなり 大入道ともなり 一本脚傘の化物ともなる
世にいわゆる妖怪変化の類( たぐい )は すべてこれ鬼神力の具体的現前に外ならぬ
鬼神力が三つ目小僧となり 大入道となるように
また観音力の微妙なる影向( えこう )のあるを見ることを疑わぬ
僕は人の手に作られた石の地蔵に かしこくも自在の力ましますし
観世音に無量無辺の福徳ましまして その功力測るべからずと信ずるのである
乃至( ないし ) 一草一木の裡( うち) あるいは鬼神力宿り あるいは観音力宿る
必ずしも白蓮( びゃくれん )に観音立ち給い
必ずしも紫陽花( あじさい )に鬼神隠るというではない
我が心の照応する所境によって変幻極りない
僕が御幣を担ぎ そを信ずるものは 実にこの故である
僕は一方鬼神力に対しては大なる畏( おそれ )を有( も )っている
けれどもまた一方観音力の絶大なる加護を信ずる
この故に念々頭々かの観音力を念ずる時んば
例えばいかなる形において鬼神力の現前することがあるとも
それに向ってついに何等の畏れも抱くことがない
されば自分に取っては最も畏るべき鬼神力も
またある時は最も親( したし )むべき友たることが少くない
さらば僕はいかに観音力を念じ いかに観音の加護を信ずるかというに
由来が執拗( しつよう )なる迷信に執( とら )えられた僕であれば
もとよりあるいは玄妙なる哲学的見地に立って
そこに立命の基礎を作り またあるいは深奥なる宗教的見地に居( お )って
そこに安心の( ほぞ )を定めるという世にいわゆる学者
宗教家達とは自( おのずか )らその信仰状態を異にする気の毒さはいう迄もない
僕はかの観音経を読誦( どくしゅ )するに
「 彼の観音力を念ずれば 」という訓読法を用いないで
「 念彼観音力( ねんびかんのりき )」という音読法を用いる
蓋( けだ )し僕には観音経の文句 ―― なお一層適切に云えば文句の調子 ――
そのものが難有( ありがた )いのであって
その現( あらわ )してある文句が何事を意味しようとも
そんな事には少しも関係を有( も )たぬのである
この故に観音経を誦( じゅ )するも
あえて箇中の真意を闡明( せんめい )しようというようなことは
いまだかつて考え企てたことがない
否( い )な僕はかくのごとき妙法に向って
かくのごとく考えかくのごとく企つべきものでないと信じている
僕はただかの自( おのずか )ら敬虔( けいけん )の情を禁じあたわざるがごとき
微妙なる音調を尚( とうと )しとするものである
そこで文章の死活がまたしばしば音調の巧拙に支配せらるる事の少からざるを思うに ……

 

泉 鏡花 「おばけずきのいわれ少々と処女作」より

 

 

 

 

 

IMAGINE BODEGA / イマジンの醸造蔵
金襴の懸蓋 ” 古今の絶唱 “ ( 不滅の賜物と時に縛られた生 )
Provision Future Ⅷ IMAGINE BODEGA 
history, convention.
TRADITION BODEGA Op. 97 ESQUISSE Werk ohne Opuszahl
密陀僧( 密陀絵 )色 Massicot / Litharge 紙上

OFFICE KANKE/GK.

 

 

 

 

人間の水は南 星は北に拱( たんだ )く乃 天( あま )の海面( うみづら )雲の波立ち添ふや

 

謡曲「 天鼓 」

 

 

 

 

天鼓

 

名宣

ワキ 「これは唐土( もろこし )後漢の帝に仕へ奉る臣下なり さてもこの國乃傍に
   王伯( おうはく )王母とて夫婦の者あり
   かの者一人の子を持つ その名を天鼓( てんこ )と名づく
   彼を天鼓と名づくる事は 彼が母( はわ )夢中に天より一つの鼓降り下り
   胎内に宿ると見て出生( しゅっしょう )したる子なればとて その名を天鼓と名づく
   その後天( にょ )より眞の鼓降り下り 打てばその聲 妙( たえ )にして  
   聞く人 感を( の )催せり
   この由帝聞し召され 鼓を内裏に召されしに 天鼓深く惜しみ 鼓を抱き山中に隠れぬ
   然れども何処か王地ならねば 官人を( の )以って捜し出し 天鼓をば呂水の江に沈め
   鼓をば内裏に召され 阿房( あぼう )殿雲龍閣に据ゑ置かれて候
   又その後かの鼓を打たせらるれども更に 鳴る事なし
   いかさま主( ぬし )の別れを歎き鳴らぬと
   思し召さるヽ間 かの者乃父王伯を召して打たせよとの宣旨に任せ
   只今王伯が私宅へと急ぎ候

一セイ

シテ 「露の世に なほ老( おい )乃身の何時までか 又この秋に 残るらん
   「傅( つた )へ聞く孔子は鯉魚に別れて 思ひの火を胸に焚き
   白居易( はっきょい )は子を先だてヽ 枕に残る薬を恨む
   これみな仁義禮智信の祖師 文道( ぶんとう )の大祖たり
   我等が歎くは科( とが )ならじと 思ふ思ひに堪へかぬる
   涙いとなき 袂かな 
   
   *鯉魚 : 孔子の亡き息子

下歌

   「思はじと思ふ心乃などやらん
   夢にもあらず現( うつつ )にも なき世の中ぞ悲しき なき世の中ぞ悲しき

上歌 

小謡 「よしさらば 思ひ出でじと思ひ寝の
   思ひ出でじと思ひ寝の
   闇乃現( うつつ )に生( ん )まれ来て 忘れんと思ふ心こそ忘れぬよりは思ひなれ
   ただ何故( なにゆえ )の憂き身の命のみこそ 恨みなれ 命のみこそ恨みなれ
ワキ 「いかにこの屋乃内に 王伯があるか
シテ 「誰にて渡り候ぞ
ワキ 「これは帝よりの宣旨にてあるぞ
シテ 「宣旨とはあら思ひ寄らずや何事にて御座候ぞ
ワキ 「さても天鼓が鼓内裏に召されて後( のち ) 色々打たせらるれども更に 鳴る事なし
   いかさま主( ぬし )の別れを歎き鳴らぬと思し召さるヽ間
   王伯に参りて仕れとの宣旨にてあるぞ急いで参内仕り候へ
シテ 「仰せ畏って承り候 さりながら
   勅命にだに鳴らぬ鼓の 老人が参りて打ちたればとて 何しに聲の出づべきぞ
   いやいやこれも心得たり
   勅命を背きし者の父なれば
   「重ねて失はれん為にてぞあるらん
   よしよしそれも力なし
   我が子乃ために 失はれんは( な ) それこそ老の望みなれ
   あら歎くまじややがて参り候べし
ワキ 「いやいやさやうの宣旨ならず ただただ鼓を打たせんとの
   その為ばかり乃勅諚( ちょくじょう )なり
   急いで参り給ふべし

上歌

シテ 「假令( たとい )罪には沈むとも
地  「假令( たとい )罪には沈むとも
   又は罪にも沈まずとも憂きながら我が子乃形見に帝を拝み 参らせん 帝を拝み参らせん
ワキ 「急ぐ間( あいだ )程なく内裏にてあるぞ
   此方へ来り候へ
シテ 「勅諚( ちょくじょう )にて候程に これまでは参りて候へども
   「老人が事をば、御免あ( な )るべく候
ワキ 「申す所は理( ことわり )なれども まづ鼓を仕り候へ
   鳴らずは力なき事急いで仕り候へ
シテ 「さては辞すとも叶ふまじ
   勅に應じて打つ鼓乃 聲もし出でばそれこそは 我が子の形見と夕月の
   「上にかヽやく玉殿に はじめて臨む老( おい )の身乃

次第
  
地  「生きてある身は久方の 生きてある身は久方の 天( あま )乃鼓を打たうよ
   「その蹟礫( せきれき )に習って 玉淵( ぎょくえん )を( の )窺はざるは
   驪龍( りりょう )の蟠( わだかま )る所を知らざるなり
   
   *その蹟礫以下 : 平家物語 長門本 巻第九 翫其積礫不窺玉淵者 未知驪龍之所蟠
   *驪龍 : 黒龍 全身の鱗が黒く 前足が2本しかない 光を苦手としている

シテ 「 げにや世々毎の假乃親子に生( ん )まれ来て
地  「 愛別離苦の思ひ深く 恨むまじき人を恨み 悲しむまじき身を歎きて われと心乃闇深く
   輪廻の波に漂( ただよ )ふ事 生々世々( しょうじょうせせ )も何時までの
シテ 「 思ひのきづな、長き世の
地  「 苦しみ乃海に沈むとかや
   「 地を走る獣( けだもの ) 空を翔( かけ )る翼まで親子のあはれ知らざるや
   況( いわ )んや( にゃ )佛性( ぶっしょ )
   同體( どうたい )の人間この生( しょう )に
   この身を浮めずは何時の時か生死( しょうじ )の海を渡り山を越えて 彼岸に到るべき
シテ 「親子は三界の首枷( くびかせ )と
   
   *三界の首枷 : 三界 すべての世界親は子を思う心に引かされて 一生自由を束縛される

地  「 聞けば實( まこと )に老心( おいごころ )
   別れの涙乃雨の袖
   しをれぞ増( まさ )る草衣身を恨みてもそのかひの
   亡き世に沈む罪科( とが )はただ命なれや明暮の  
   時乃鼓の現( うつつ )とも思はれぬ 身こそ恨みなれ

ロンギ
 
   「鼓の時も移るなり。涙を止めて老人よ( にょ )
   急いで鼓打つべし
シテ 「げにげにこれは大君の かたじけなしや勅命の 老乃時も移るなり
   急いで鼓打たうよ
地  「打つや打たずや老波( おいなみ )の 立ち寄る影も夕月の
シテ 「雲龍閣の光さす
地  「玉の階( きざはし )
シテ 「玉乃床に
地  「老の歩みも足弱く薄氷を履( ふ )む如くにて 心も危( あよお )きこの鼓
   打てば不思議やその聲乃
   心耳( しんに )を澄ます聲出でて
   げにも親子乃證( しるし )の聲
   君も哀れと思し召して 龍顔( りょうがん )に御( おん )涙を 浮かめ給ふぞありがたき
ワキ 「いかに老人
   只今鼓の音( ね )乃出でたる事、實( まこと )に哀れと思し召さるヽ間
   老人には數の寶を下さるヽなり
   また天鼓が跡をば
   管弦講( かげんこう )にて御(おん)弔ひあるべきとの勅諚( ちょくじょう)なり
   心安く存じ まづまづ老人は( な )私宅に歸り候へ
   
   *管弦講 : 管弦を以って弔う法事

シテ 「あらありがたや候
   さらば老人は( な )私宅に帰り候べし

中入

ワキ 「さても天鼓が身を沈めし 呂水( ろすい )の堤(つつみ )に御幸( みゆき )なって
   同じく天( あま )の鼓を据ゑ

待謡
      
   「糸竹呂律( しちくりょりつ )の聲々に 糸竹呂律の聲々に 法事を為して亡き跡を
   御( おん )弔ひぞありがたき。頃は初秋の空なれば
   はや三伏( さんぷく )乃夏闌( た )け
   風一聲( いっせい )の秋乃空夕月の色も照り添ひて
   水滔々( とうとう )として 波悠々たり
   
   *糸竹呂律 : 音楽と音階
   *三伏 : 陰陽五行説に基づく選日の一初つ 初伏 / 中伏 / 末伏の総称
   *滔々 : 世の風潮の勢いに乗って流れいくさま

後シテ「あらありがたの御( おん )弔ひやな
   勅を背きし天罰にて、呂水( ろすい )に沈みし身にしあれば 後の世までも苦しみの
   海に沈み 波に打たれて 呵責( かしゃく )乃 責( せめ )も隙( ひま )なかりしに
   思はざる外( ほか )の御弔ひに 浮かみ出でたる呂水の上
   曇らぬ御代( みよ )の ありがたさよ
ワキ 「不思議やなはや更け過ぐる水の面に 化( け )したる人の見えたるは
   如何なる者ぞ名を名のれ
シテ 「これは天鼓が亡霊なるが 御( おん )弔ひのありがたさに これまで現れ参りたり
ワキ 「さては天鼓が亡霊なるかや
   然らばかヽる音楽の 舞楽も天鼓が手向( たむけ )の鼓
   打ちてその聲出づならば
   「げにも天鼓が證(しるし)なるべしはやはや鼓を仕( つかまつ )れ
シテ 「嬉しやさては勅諚ぞと、夕月かヽやく玉座の邊( あたり )
ワキ 「玉の笛乃音( ね )聲( こえ )澄みて
シテ 「月宮の昔もかくやとばかり        

*月宮 : 月の中にある都 又月の都にあると信じられた宮殿

ワキ 「天人も影向( ようごう )       

*影向 : 神仏が時に応じて 仮にその姿を現す

シテ 「菩薩も此處に
シテ・ワキ 「天降( あまくだ )ります気色にて、同じく打つなり天( あま )の鼓

上歌
  
地  「打ち鳴らすその聲の 打ち鳴らすその聲乃
   呂水(ろすい)の 波は滔々( とうとう )と
   打つなり打つなり汀の聲乃 寄り引く
   糸竹( いとたけ )の手向乃舞楽はありがたや
シテ 「面白や時もげに
地  「面白や時もげに 秋風楽( しゅうふうらく )なれや松の聲
   柳葉( りゅうよう )を拂って月も涼しく星も相逢ふ空なれや
   烏鵲( うじゃく )の 橋乃もとに 紅葉を敷き 二星( じせい )の 館乃前に風
   冷やかに夜も更けて 夜半楽( やはんらく )にもはやなりぬ
   人間の水は南 星は北に拱( たんだ )く乃
   天(あま)の海面( うみづら )雲の波立ち添ふや

   呂水( ろすい )の堤の月に嘯( うそむ )き水に戯れ波を穿ち 袖を返すや
   夜遊( やいう )の舞楽も時去りて 五更( ごこう )の一點鐘も鳴り
   鶏( とり )は八聲( やこえ )のほのぼのと 夜も明け白む 時の鼓
   數は六つ( むつ )の巷乃聲に また打ち寄りて現( うつつ )か夢か
   また打ち寄りて現か夢幻とこそ なりにけれ
   
   *秋風楽 : 雅楽の曲名 七夕の日に楽工の養良が作り長生殿で奏すると 
    冷たい風が吹いてきたので秋風楽と名付ける
   *烏鵲 : からすとかささぎ
   *夜半楽 : 雅楽の曲名 夜になってこの曲を演奏し
    退出音声( 参会者が退場する時の音楽 )として奏す
   *二星 : 牽牛・織女の二星    
   *五更 : 一夜を五つに分けたもの
    初更・二更・三更・四更・五更の総称 一更は約二時間

 

演能 四番目物

 

 

 

 

 

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黄金の秩序 ” 古今の絶唱 “ ( 不滅の賜物と時に縛られた生 )
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